製薬販売後調査等における医療データ(RWD)の活用

2022年2月22日にアップいたしました本記事の記載内容に不正確な記載がございました。お詫びして訂正いたします。リアルワールドデータへの理解を深める目的が達成できるよう、外部チェックの工程を入れるなど、細心の注意を払って正確な記載を心がける所存です。

近年、製薬業界ではリアルワールドデータ(以下RWD)の利活用が急速に進んでいます。医療情報データベースの構築、そしてそれに伴ってRWDの解析手法も発展し、研究開発に用いるための基盤も整備されてきています。創薬の工程においてRWDが活用される場面は様々であり、研究や臨床開発から製薬販売後調査、プロモーションまで多岐に渡ります。今回は、この中でも製薬販売後調査等に焦点をあて、RWDを活用するメリットや展望等についてご紹介します。

※RWDについては以下の記事をご覧ください。

医薬品開発におけるリアルワールドデータ(RWD)の利活用について

1.製造販売後調査等とは?

まず、製薬販売後調査等とはなにか、その種類について解説します。製薬販売後調査等(Post Marketing Surveillance; PMS)とは、臨床試験が行われ新薬が承認された後に、医薬品の有効性や安全性の確認および、治験では得られなかった新たな作用や副反応に関する情報収集を目的に行う調査や試験のことです。これらには大きく分けて3つの種類があるとされています。

使用成績調査

医療機関から収集した情報を用い、診療における医薬品の副作用やその有効性、安全性を確認するための使用実態調査です。条件を設けずに調査を行うこともありますが(これを「一般使用成績調査」と呼びます)、高齢者や特定の疾患を有する患者に条件を限定する「特定使用成績調査」もあります。PMSの際に遵守すべき事項をまとめたGPSP省令の2018年の改正の際に、これまで「使用成績調査」の1つとして実施されてきた、医薬品を使用する者としない者を比較することによって行う「使用成績比較調査」も新たに規定されました。

製造販売後臨床試験

日常診療の枠組みでは得られない情報を収集するために、販売後に引き続き有効性や安全性を検討する目的で行う臨床試験を指します。

製造販売後データベース調査

医療機関から直接収集したデータではなく、医療情報データベースを用いて医薬品の副反応や安全性を確認するための調査です。RWDを活用してより効率的に良質なエビデンスを創出し医薬品開発を推進する目的で、2018年に施行された「改正GPSP省令」によって新しく規定されました。

このように製薬販売後調査等は、日本において新薬あるいは追加適応承認後に高い割合で実施されていますが、これは「再審査制度」という仕組みに起因しているといわれています。この制度は、承認後の定められた期間(多くの新薬の場合は8年)が経過した後、製薬企業側が市販後調査等によって得られたデータをまとめて当局に提出し、再度審査を受けるという制度です。これによって企業側は承認後も副作用等に関わる情報を集める必要があり、製薬販売後調査等を通して医薬品の安全性がより確かなものになっているといえます。

参考資料

製造販売後調査(PMS)と医師の役割 2011年8月号 Clinical Research Professionals No.25.
GPSP省令の改正と製造販売後調査等について 2018年8月 医薬品・医療機器等安全性情報 No.355.
医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準(GPSP)について <スズケンDIアワー> 平成17年5月26日放送内容より
新医薬品の市販直後の 安全対策につい 2014年8月号 医薬品・医療機器等安全性情報 No.315.
医薬品リスク管理計画について 2015年7月 医薬品・医療機器等安全性情報 No.324

2.従来のPMSの問題点、改善点

再審査制度の影響もあり、日本では製薬販売後調査等が盛んに実施されていますが、従来の医薬品安全性監視活動ではいくつかの問題点や課題が指摘されています。次に主な課題を3つご紹介します。

実施計画における限界

製薬販売後調査等を行う意義の一つとして、治験では得られなかった副反応の情報を得るだけでなく、市販後においても副反応の発現頻度が治験から予測される範囲内であるか、治験で判明していたリスクが市販後もリスクであるかどうかを検証することが挙げられます。しかし少し前まで使用成績調査は、画一的な調査方法が実施されており、有害事象を検出することに重きが置かれ、当該医薬品のリスク管理にほとんど役立っていない等の問題点が指摘されてきました。このように漫然と調査を実施するのではなく、具体的な懸念事項を明確にしたうえで、科学的に適切な方法を用いて情報を取得する必要性が高まっています。

②対照群の用意が難しい

ある医薬品の副作用について適切に評価するには、比較対照群が必要になります。しかしながら、通常の市販後調査等では自社販売品の情報収集のみで、対照薬の情報収集は医療機関や対照薬の販売会社からの協力が得られにくいのが現状です。また、画期的な新薬であるほど、承認後に該当医薬品による治療を受ける患者が大多数を占めるため、標準的な治療を行っている対照群を設定することがより難しくなるという問題点もあります。同様に希少疾患を対象とする場合も、対照群を設けることが難しくなります。

③医療機関側の協力を得ることが難しい

上記の理由などから、市販後調査等に協力する医療機関側も、治験と比較するとしっかりとしたエビデンスを持ったデータを提供しているといった実感が湧きづらいことも大きな問題の1つです。実際、企業は市販後調査等に莫大な投資をしているにも関わらず、海外の一流雑誌に結果が掲載されることは多いとはいえないのが現状です。また、調査が長期間に及ぶことで、医療機関に人的なコストの面で大きな負担をかけてしまうことも問題の1つに挙げられます。

参考資料

第2回 薬事に関するハイレベル(局長級)官民政策対話 平成29年6月1日の対話のポイント 厚生労働省
製造販売後調査(PMS)と医師の役割 2011年8月号 Clinical Research Professionals No.25.
医療健康分野のビッグデータ活用研究会 報告書 vol.3

3.安全性監視活動におけるRWD活用の試み

上述のような問題点が挙げられる中、近年では安全性監視活動、とりわけ製薬販売後調査等にRWDを活用しようとする動きが活発化しています。RWDを活用することにどのような利点があるか、最新の試みも踏まえ、ご紹介します。

①精度の高い調査が可能になる

先述の通り、「改正GPSP省令」においてMID-NETや疾患レジストリなどの医療情報データベースを用いた製薬販売後調査等が規定されました。データベースを用いることで、企業は副反応の発現頻度を把握し、さらには非投与患者と比較を行うことも可能となります。また、自社製品の情報だけでなく、他剤との比較も可能となり、比較対照群を用意した精度の高い調査を行うことが容易になります。RWDを調査に用いるためには、リサーチ・クエスチョンを明確にしたうえで、それぞれの目的に沿った調査デザインを検討する必要があります。従来の画一的な使用成績調査のみを行うのではなく、対照群を用意した調査を組み立てることで、科学的により意義の大きいデータを得ることができるのも、RWDを活用するメリットの1つであるといえます。ただし、RWDからバイアスを完全に取り除くことは難しく、従来の調査方法との適切な使い分けが必要と言われています。

医療機関やアカデミアとの連携が促進

これまで使用成績調査等によって情報を収集していたために、安全性監視活動は長期的かつ莫大な費用が必要となるケースも多く 、製薬企業や医療機関の双方に人的または財政的に大きなコストを強いていたといえます。DBを活用してRWDを効率的かつ迅速に情報を収集することで、これらのコストを削減することができると考えられます。そして負担の軽減やエビデンスのあるデータの創出によって、医療機関やアカデミアの側にもインセンティブが働くことになり、これらの組織との連携、協力関係が促されると考えられます。

参考資料

第2回 薬事に関するハイレベル(局長級)官民政策対話 平成29年6月1日の対話のポイント 厚生労働省
医療健康分野のビッグデータ活用研究会 報告書 vol.3
ICPM 2018 【セッション3 医薬品安全性】国内と海外のデータベースの特徴と医薬品安全性モニタリングへの応用-異なる視点からのデータベースの理解- 医療情報データベースを活用した 医薬品の製造販売後調査について. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構.
製造販売後調査(PMS)と医師の役割 2011年8月号 Clinical Research Professionals No.25.

4.まとめ

近年、 日本における新薬の承認審査期間は欧米諸国と並ぶほどに短縮しつつあるといわれており、使用経験が限られている新薬の安全性を市販後に継続的に監視する必要性がますます高まってきています。それに呼応する形での医療情報データベースの拡充や周辺の制度の整備により、安全性監視計画にRWDを効果的に利活用することがより一層求められるようになってきました。従来の形式的な使用成績調査を行うのではなく、目的に応じて、RWDの使用を含めた調査デザインをその都度検討することで、製薬販売後調査等においてもよりエビデンスのあるデータを得ることが期待できます。これからもRWDによって、販売後の安全対策の質の向上、そして医薬品の開発が促されていくと考えられます。

参考資料

ICPM 2018 【セッション3 医薬品安全性】国内と海外のデータベースの特徴と医薬品安全性モニタリングへの応用-異なる視点からのデータベースの理解- 医療情報データベースを活用した 医薬品の製造販売後調査について. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構.


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