MID-NET®とは?内容や事例を詳しくご紹介

近年、医薬品の安全対策において、大規模な医療情報データベースの活用を推進する動きがあります。従来、製薬企業や医療機関からの副作用報告や使用成績調査によって情報を収集する方法が一般的ですが、これには複数の課題が提起されてきました。例えば、医薬品の正確な利用者数が把握できないために副作用の発現頻度の評価が難しい、他剤との副作用の比較が困難、疾患による症状と副作用の区別が難しい、などが挙げられます。この様な現状を踏まえ、厚生労働省などによって、従来の安全対策を補う形での大規模なデータベースを活用した情報収集、解析の必要性が訴えられています。この記事では、そのようなデータベースの先駆けともいえるMID-NETについて詳しくご紹介していきます。

1: MID-NET®とは

MID-NET®とは、厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が作った医療情報データベースです。全国10拠点の協力医療機関と連携しており、約536万人(2020年12月末現在)の電子カルテやレセプトデータ、DPCデータを蓄積、解析することが可能です。平成30年4月1日より本格運用が開始され、行政や製薬企業において副作用などの医療品の安全対策に利用されるだけでなく、アカデミアにおける学術研究分野への活用も期待されています。

レセプトデータやDPCデータについては、次の記事をご参考にしてください。

リアルワールドデータ(RWD)とは?種類・政府の取り組み・課題について

 

次に、医薬品の安全対策において、MID-NETなどの大規模な医療情報データベースにどのような利点があるかを詳しくご紹介していきます。

1: 現状に即したデータを大規模に集積

情報データベースの大きな強みの一つとして、膨大な医療ビックデータを扱える点が挙げられます。小児から高齢者まで幅広い年齢層や既往症の有無など多様な背景を持った患者データを収集し、利活用することができます。加えてMID-NETでは、電子カルテの情報やレセプトデータ、DPCデータといった豊富なリアルワールドデータ(Real-world Data; RWD)を用途に応じて使うことができます。

2: 副作用の発現頻度を調査

従来の情報収集方法では、自発的な報告が主体であったために薬剤の投与総数が不明で、副作用がどれくらいの頻度で起こるのかを算出することが困難でした。大規模な情報データベースを用いることで、精度の高い副作用の頻度を調べることができるだけでなく、同効薬間で発現頻度を比較することも可能になります。

3: 症状に関する考察が可能に

ある症状がみられた際、薬剤の副作用に起因するものなのか、その疾患由来するものなのかどうか、自発的な副作用の報告のみから判断することは難しいといえます。データベース上に蓄積された情報に基づいて、投薬をせずに治療を行った対象群を設けることで、薬剤の投与によってその症状の発生件数が増加しているかどうか明らかにすることができます。

4: 安全対策措置についての評価

情報データベースを用い、副作用の発生状況を継時的に蓄積していくことで、安全対策の施行前後で発現件数が減少したかどうかを調べることも可能となります。これによって、実施した対策がどれほどの効果を及ぼしたかも評価することができます。

5: 信頼性の確保された情報を提供

複数の病院から送られてくるデータを統合されたデータソースとして利用するためには、検査値の単位を統一するなど、適切な標準化を行わないとデータに不整合が生じます。MID-NETでは、MDRA(MID-NET® Real-time Data-quality Assurance)というデータベースの品質を管理、保証する仕組みを導入することで、不整合が生じにくい、より信頼のおけるデータセットを提供することができます。

6: 人的・財政的負担を大幅に軽減

これまで製薬企業は、大規模な使用成績調査を実施するために莫大な調査コストを割く必要がありました。データベースを用いることで、副作用の調査に要する負担が軽減されると考えられます。

参考:

2: MID-NET®の利活用の事例

では、実際にMID-NETが副作用の安全対策措置においてどのように活用されているのか、その具体的な事例を見ていきましょう。

1: G-CSF製剤と血小板減少に関する薬剤疫学調査

がんの治療に用いる薬の中には、病原体を排除する役割を持つ好中球が減少するような副作用をもつものもあります。このような好中球減少症に対する有効な薬剤の一つとしてG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)薬剤が挙げられます。この薬剤使用時に血小板が減少する症例が報告されていました。そのため、MID-NETを用い、がん化学療法を受けている患者を対象に、G-CSF製剤処方の有無別に血小板減少の発現状況を調査し、製剤と血小板数減少の関連について評価を行いました。その結果、G-CSF製剤の一種であるペグフィルグラスチムを処方された群においては、血小板減少リスクが有意に高いという結果が出ました。また、他のG-CSF製剤ではそのような傾向が見られないことも明らかになりました。このように副作用の発現頻度を検討し、複数の薬剤間で比較できるのがMID-NETを用いた調査の大きな利点の一つであるといえます。

2: 重篤な副作用対する安全対策措置の影響調査

骨病変治療薬の一つであるランマーク皮下注120mgは死亡例を含む重篤な低カルシウム血症が報告されていました。これをふまえ、安全性速報(ブルーレター)の発出などの安全対策措置が講じられることになりました。この措置を評価するために、副作用の発生割合の継時的な変化をMID-NETを用いて解析しました。その結果、ブルーレターによる効果は明確ではないものの、時間の経過とともにランマーク投与群での低カルシウム血症の発生割合が低下する傾向が認められました。これは、継続的な安全対策が副作用の発生リスクの低下とその維持に寄与していると考えられます。このような調査は、MID-NETが副作用への安全対策措置を評価するための判断材料を提供できることを示す好例といえるでしょう。

参考:

3: 課題と展望

様々な調査に用いられてきているMID-NETですが、現状では想定する利活用件数に到達しておらず、財政的な点で苦境に立たされているのも事実です。利用件数が伸び悩んでいる原因の一つとして、利活用ルールが煩雑でプロセスに時間を要することが挙げられます。特に、利用料を支払う前にデータベース利用の判断に必要な情報が得られないことは利活用を妨げている大きな要因の一つであるといえます。このような背景からMID-NETではルールの改訂に加え、定型的な解析を定期的に実施することで必要なエビデンスを迅速に提供できるようにする試みである早期安全性シグナルモニタリングを計画し、利活用の活性化や利便性の向上を図っています。

くわえて、蓄積されているデータが大学病院を中心としたものであるため、患者集団に偏りがあることが指摘されています。これを改善するためMID-NETでは、民間病院を含めた協力医療機関を増やすことによりデータ規模の拡大を進めています。

参考:

4: まとめ

MID-NETは大規模な医療データベースとして、副作用の安全対策措置事業において大きな存在感を放っているといえます。2017年に導入された「医薬品条件付き早期承認制度」では、承認条件として求められる調査にMID-NET等のリアルワールドデータを扱ったデータベースを利用することが認められました。また2019年には、横浜市大や日本医療研究開発機構が主導で、MID-NETのアカデミア初の利活用がなされました。このように製薬企業や行政、研究機関など幅広い分野での使用が期待されており、利用ルール改訂などにより利便性が向上することで、今後もMID-NETの利活用はさらに進んでいくと考えられます。

参考:

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