デジタルヘルス・エコシステムとは?

日本人の平均寿命は年々伸びており、それに伴い医療費は増加しています。厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳で、ともに過去最高を更新しました。一方、年間にかかる医療費は増え続けています。コロナウイルスの影響で、医療機関への受診を国民が控えたことや感染症全般の発生が減少したことにより、近年の医療費はやや減少していますが、長期的に見ると、2000年の医療費が30.1兆円、2010年の医療費が37.4兆円、2020年の医療費が42.2兆円というように、年々増加しています。

また、年齢階級ごとの医療費は、年齢が上がるにつれて増加します。厚生労働省の「平成30年度 国民医療費の概況」によると、年齢階級別の一人あたりの医療費は3034歳で13万円ほどですが、6569歳で約50万円になり、85歳以上では100万円を超えます。高齢者人口の増大により医療費が増加していくことと、生産年齢人口の減少により税収が伸び悩むことを考えると、現在の医療制度の持続が危ぶまれることは言うまでもありません。

増加する医療費を抑えるためには、国民の健康寿命を伸ばしていく必要があります。そこで予防医療が重要となります。この予防医療を行うために、個人や患者ひとりひとりの健康データ、医療データ(リアルワールドデータ)を包括的に活用することが注目されています。

現在は医療機関や製薬会社、ヘルスケア関連企業など、それぞれがデータを収集し、治療や自社の製品開発に役立てています。一つの組織のみで包括的なデータを収集・活用しようとすると、莫大な労力と費用がかかってしまうでしょう。そのため、デジタルヘルス・エコシステムの形成が求められています。

1: デジタルヘルス・エコシステムとは

「エコシステム」という言葉はもともと、自然界の生物と環境の相互作用により継続的に調和した生態系を指す言葉です。1990年代初めに米国シリコンバレーのスタートアップベンチャーの成功を説明する概念として使われるようになりました。現在はビジネス用語として一般化し、業種・業界を超えた協業の実現を可能にするシステムという意味合いで用いられています。

「デジタルヘルス・エコシステム」はデジタルヘルス領域のエコシステム、すなわち、医療機関、製薬会社、医療機器メーカー、ヘルスケア関連企業などの組織が協業し、それぞれが収集した個人の医療データ・健康データを流通させ、活用するエコシステムです。

2: デジタルヘルスエコシステムの具体例

デジタルヘルス・エコシステムはまだ形成途中ですが、現在行われているデータ活用、そして今後すすめていくべきデータ活用のあり方を、以下の4つに分類しました。

1. 一つの組織によるデータ管理

例としては、医療機関による電子カルテや健康アプリでの体重管理といったものが挙げられます。それぞれのデータは一つの組織にのみ蓄積されます。

2. データを活用したリアルサービス

リアルサービスに外部データを連携させるなど、データの利活用を通じてサービスを高度化していくことです。例としては、フィットネスやリハビリなどの健康サービス企業の取り組みが挙げられます。健康サービス企業が、生活習慣データやバイタルデータなどの個人データを有する企業と連携し、データを活かしたサービスの提供するなどです。また、サービスの結果として得られる健康データを蓄積し、更にサービス向上を図っています。

3. リアルサービス同士の連携

これはデータの流通を前提としない連携です。例としては、地域医療・介護の現場においての地域包括ケアや特定地域内での生活習慣病予防プロジェクトが挙げられます。病院や薬局、行政などの地域の医療・ヘルスケアに関連する団体が連携し、患者や個人を中心とした医療と予防プログラムが行われています。

4. 複数のサービスや職種を巻き込んだエコシステム

2.で形成されるサービス・データの連携関係が他のサービス・データに広がる、または、3.で形成されたリアルサービスの提携がスケールアップすることにより、データ流通において複数のサービスや職種を巻き込んだエコシステムが形成されます。

3: 課題

デジタルヘルス・エコシステムを形成する上での課題としては、以下の3点があります。

1. 法によって定められた厳格なプライバシー基準を守りながら、エコシステムでデータを交換していかなければならないというジレンマ 

ヘルスケア分野は、個人情報に深く関わる分野であるため、法律によって取り扱いに厳しい制約が設けられています。個人情報保護とデータ活用のバランスをどう取るのかという議論が必要になってきます。

2. データ収集や活用の仕組みが未完成

電子カルテやEHR(Electronic Health Record; 電子健康記録)システムの構築といった、データエコシステムにつながるデータ収集や活用がまだ普及していない現状があります。

3. 中核的なプレイヤーが不在

収集されたデータを関係組織へとつなぐ中心となる組織がまだ存在していません。海外では一部の保険会社が契約者向けに予防サービスを提供し、医療費の抑制を図るエコシステムを形成していますが、中核となる企業はまだ登場していないようです。

 

形成したエコシステムを持続させるために必要なのは、社会的メリットだけでなく、経済的メリットも得られる仕組みづくりです。個人のQOL向上といった社会的意義を達成することは重要であるものの、参画企業や団体が事業を収益化できること、すなわちマネタイズの実現も必要です。マネタイズが実現できずに、行政からの補助金を収益源としてしまうと、補助金が止まったタイミングで運営できなくなってしまいます。このような経済的メリットも得られる仕組みにより、エコシステムは持続性を持ち、社会的メリットの長期的な供給を可能にします。

4: まとめ

個人や患者ひとりひとりの健康データ・医療データを活用し、国民の予防医療を行うことは、増加する医療費を抑えることができると考えられています。デジタルヘルス・エコシステムの形成は、法制度の壁をはじめとした課題があるものの、これからの高齢化社会で人々が健康に長く生きていくために不可欠なものと言えるでしょう。

 

Yuimediでは、医療をデータで結うことで医療分野の研究開発を促進すべく、医療データの収集や活用のためのシステム提供およびコンサルテーションを実施しています。これらのサービスが、デジタルヘルス・エコシステムの形成に貢献できるよう、医療分野に携わる方々と日々情報交換を続けています。

Yuimediの活動についてご興味のある方は、こちらからお問合せください。

 

参考資料

令和2年平均寿命(男性)
令和2年平均寿命(女性)
平均寿命の年次推移
国民医療費の年次推移(平成30年度まで)
令和2年度 医療費の動向
年齢階級別にみた国民医療費
第1回「異業種連携によるデジタルエコシステム形成」
「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第6回「デジタルヘルス・エコシステム【前編】」
「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第7回「デジタルヘルス・エコシステム【後編】」
レポート:米国の医療を変えつつある2020年のトレンドとは?「デジタルヘルスのエコシステム」調査
MedTech業界 におけるデジタル・ プラットフォームの未来
レポート:米国の医療を変えつつある2020年のトレンドとは?「デジタルヘルスのエコシステム」調査/
AI×エコシステムによる個別最適で立ち向かう、超高齢社会の健康医療
高齢化社会と医療費の備え