医薬品開発におけるリアルワールドデータ(RWD)の利活用について

近年、製薬業界では、リアルワールドデータ(Real-world Data; 以下RWD)の利活用に注目が集まっています。その背景にあるのが医薬品の開発コストの高騰とRWDに関連した法規制の改正であり、特に期待されているのが臨床試験の効率化です。患者数が少なく試験実施が困難な希少疾患の承認申請や、高齢者や妊婦など試験で除外された患者群の投与データ追加、さらには、適応拡大、用法用量の変更など添付文書改訂のための研究といった部分での利活用が期待されています。

今回は、製薬業界でのRWDの利活用への取組み、また利活用に向けた課題と展望について紹介します。

RWDの概要についてはこちらの記事をご覧ください。

リアルワールドデータ(RWD)とは?種類・政府の取り組み・課題について

1: RWDの利活用事例~国内における承認申請の事例

まずは、活用事例として、「外部対照としての活用」「公知申請での活用」「臨床開発計画時での利用」の3つを紹介します。

1-1: 外部対照としての活用

外部対照とは被験治療を受けた患者さんを含むランダム化比較試験に参加していない患者さんで構成された対照群のことで、外部対照としてRWDを活⽤することが可能です。外部データを評価に用いた代表的な国内事例として、2015年に承認されたストレンジック皮下注(アスホターゼアルファ(遺伝子組換え)注射液)があげられます。

ストレンジック皮下注は、希少疾病用医薬品に指定されている融合タンパク質製剤で、低ホスファターゼ症に対する治療薬として承認されています。その承認申請時に外部対照として、「米国の病院(Shriners Hospitals for Children ― St. Louis, Missouri)で維持管理されている小児低ホスファターゼ症患者の自然歴データベース」および「海外7か国12施設のEHR(Electronic Health Record; 電子健康記録)から収集された重症周産期型/乳児型低ホスファターゼ症患者を対象とした低ホスファターゼ症の病因、症状範囲および臨床的進行に関するデータ」のRWDが活用されました。

このように、例数確保が困難な試験や倫理的にプラセボ対照群を設定するのが難しい試験、長期観察の必要な評価項目が含まれた試験などにおいて、外部対照としてRWDを活用することが有効だと考えられています。

1-2: 公知申請での活用

公知申請とは、「日本未承認のため使用できない海外の医薬品について、有効性・安全性など科学的根拠が十分と認められた場合には医学薬学上『公知』であるとされ、臨床試験の一部あるいは全部を行わなくとも国内での承認が可能となる制度」です。実際に国内外において、レジストリデータなどのRWDを活用した適応拡大や用法用量の変更が公知申請として承認されています。

公知申請時にRWDが活用された代表的な事例として、2011年に関節リウマチに対する治療薬として承認されたリウマトレックス(メトトレキサート)があげられます。リウマトレックスの公知申請時、安全性データのひとつとして東京医科歯科大学が中心として作成したレジストリ(REAL)のデータが活用されました。レジストリを参照した結果、公知申請により、関節リウマチに対する用量の上限が8 mg/週から16 mg/週に引き上げられました。

こうしたRWDを利活用した適応拡大や用法用量の変更などによるドラッグリポジションは、開発コストを大幅に削減できることから、既に市販されている医薬品のライフサイクルマネジメントとして有効な戦略となり得ます。

1-3: 開発計画や臨床試験デザインの検討への利用

今後見込まれる製薬業界の環境変化の中で、選ばれる薬を世に出していくためには、適切なデザインで臨床試験を遂行することが重要です。RWDは開発計画や臨床試験デザインの検討へ利用できる可能性もあります。

2018年に発表されたRWD研究では、喘息患者を対象に、異なるデバイス間や異なる薬剤間におけるアドヒアランス及び喘息関連イベントを評価しています。こうしたデータを利用することでデバイスや薬剤の違いが実臨床下で示すアウトカムの差を考慮した上で、開発計画を検討することが可能になります。その結果、開発時の失敗リスクやコストを抑えられ、より患者さんに適した薬を届けられることが期待できます。

また、RWDの利用が可能となることで、より緻密な研究計画を立てることができ、計画時に新薬のターゲット層等を明確にすることが可能になります。このようにRWDは、新薬開発時からライフサイクルマネジメント戦略の立案にまで様々な用途で利用可能です。

参考:『リアルワールドデータを承認申請へ ~活用促進のための提言~』2020年4月 日本製薬工業協会

2: RWDの活用における課題と展望

次に、RWDの活用における課題と展望を「リソースおよびコスト」「データベース(以下、DB)やデータソース」2つの観点から紹介します。

2-1: リソースおよびコスト的観点での課題と展望

RWDの利活用事例は徐々に増加しているものの、RWDを利活用している製薬企業はまだ約半数にとどまっており、RWDの利活用を積極的に行っている企業とそうでない企業が二極化していると言われています。

その理由のひとつとして、社内リソースとコストに関する課題があります。まだ多くの製薬企業はRWDを扱う専門的な部門が存在せず、必要に応じて各部門が独自にRWDの利活用を行っていることが多いといわれています。部門内で実施することのメリットとして、迅速な計画実行やデータの質の担保が考えられますが、デメリットとして、部門間でデータが共有されておらず、入手したデータが重複することや、各部門内でのインフラ構築が必要となり人的リソースおよびコストの余剰に繋がることがあげられます。

このような背景もあり、効率的にRWDを利活用するため、製薬企業ではRWD活用に関する独自の専門部門の構築が盛んになっています。RWD関係の様々な専門家(データサイエンティスト、リサーチャー、法律家など)を部門内に配置し、効率アップとコスト削減を狙っています。社内に十分な専門家がいないことや、RWDの活用へ向けた長期的な計画が明確でないことなどの課題は残ったままですが、より多くの場面でRWDを積極的に活用することで、フィードバックを元にさらに効率的な利用に着手できるでしょう。

2-2: DBやデータソース的観点での課題と展望

多くの製薬企業はアクセスできるDBへの権利が限られており、必要としているデータをうまく収集できない状況だと言われています。

その理由のひとつとして、製薬企業が主に利活用しているDBがレセプト等の医療管理データをもとにした民間DBであることがあげられます。民間DBでは、得られる情報規模や必要な情報獲得に制限があるため、真に欲しい結果を得るための分析を困難にしています。

このような背景もあり、これまで公的な機関や法人の利用に限って利用が認められていた、国の保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)が「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」によって2020年10月1日から民間企業の一部目的での利用も可能になりました。NDBは、データの悉皆性(データが全数あること)や患者の追跡性が高く、先に上げた課題を解決できるDBとして期待されています。更に今後は、希少疾患レジストリを承認申請に使用可能なDBとするための補完や再構築が勧められていくと考えられています。

レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)についてはこちらもご参照ください。

参考:『医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律の成立について』令和元年6月12日 厚生労働省保険局

3: おわりに

欧米では規制整備や承認申請に耐えうるRWDの利活用環境の構築により、外部対照群等が承認申請の一部として活用された例がいくつか存在します。日本においては、2019年に条件付き早期承認制度でのRWDの活用が認められたほか、2021年3月に「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」として、RWDの一つであるレジストリデータを承認申請等に活用する場合のガイドラインが発表されました。このように、承認申請など活用範囲を積極的に広げるため、RWD活用のための環境構築に今後も期待したいところです。

こうしたRWD利活用のための環境構築が進む中、上述の通りRWDの医療DBの利活用を検討する製薬企業が増えてきており、個々のDBの利活用はもちろんのこと、将来的には異なる組織のDBを組み合わせた活用も検討されています。現時点では、各医療DBを個々の患者レベルで結びつけることはすぐには難しいものの、将来的には、様々な情報を含んでいる医療DB同士それらが連携可能になることにより、製薬会社において、より幅広い分野でRWDの利活用が可能になると期待されます。

参考:
『医薬品の条件付き早期承認制度の実施について』平成29年10月20日 薬生薬審発1020第1号
『「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」について』令和3年3月23日 薬生薬審発 0323 第1号 


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