患者レジストリとは?活用実例と課題について

近年医療分野、特に医薬品や医療機器等の臨床開発において患者レジストリの活用が注目されています。難病の臨床開発は、疾病の重篤性や対象患者数の限界を要因に、必要な情報が収集できなかったり、症例数の確保が難しく、治験の実施自体がきわめて困難であったりという問題があります。そこで、患者レジストリの活用がこれらの問題を解決する方法として期待されています。

ここでは、患者レジストリとは何か、どう活用されているのか、また活用に向けての課題について詳しくご紹介します。

1: 患者レジストリとは(定義)

患者レジストリ(patient registry)は患者が何の疾患でどのような状態かなど、特定の病気、疾患群、治療等の医療情報の収集を目的としたデータベースであり、リアルワールドデータ(RWD)の一つです。疾患レジストリ (disease registry)と呼ばれることもあります。登録単位が症例である症例データベース(case reports database)と異なり、患者レジストリの登録の単位は患者であるのが特徴です。

2: 患者レジストリの分類例

ここでは、患者レジストリの分類例をご紹介します。

1: 運用目的による分類例

  • 医学的な情報収集(患者の性差や好発年齢、疾患の症状・合併症、患者の死因、主観的健康観などの調査)
  • 福祉的な情報収集(医療費、利用している社会福祉サービス、患者が受けているソーシャルサポート等の社会福祉ニーズなどの調査)
  • 治療のための情報収集(臨床試験・治験へのリクルート、医薬品の市販後調査など)

2: 患者レジストリの運用を誰が行うかでの分類例

  • 国、学会、医療機関、患者会、営利企業、非営利団体など

3: 誰が患者レジストリへの患者情報の登録したかによる分類例

  • 医師、 患者本人、患者の家族(もしくは家族以外のヘルパーなどの代理人)

4: 患者レジストリに蓄積された情報の共有範囲による分類例

  • 患者レジストリを運用している研究グループ(およびその共同研究者)のみに限る場合
  • 第三者も含む場合

3:患者レジストリの活用事例 

では、実際に患者レジストリが活用されている例をいくつか紹介します。

1: 市場調査

レジストリデータを活用することで、特定疾患の患者数や患者の地域分布分析が可能となり、日本での医薬品開発可能性の検討に役立ちます。

2: 臨床試験計画時における実施可能性の調査

疾病にはサブタイプによって重症度や症状が異なり、自然歴に差異があるものがあります。レジストリデータを活用することで、各サブタイプの症状、進行速度等に関する情報が得られ、 臨床試験における選択・除外基準、治療する疾患の病期、治療期間、データ収集の頻度、評価項目、目標症例数等を決定するのに役立ちます。

3: 治験への患者リクルート

レジストリデータを元に臨床試験の候補患者を見出すことで、患者さんを効率的に治験・臨床研究へ組入れることが可能になります。

4: 製造販売後調査、安全性対策

レジストリデータを活用することで、市販後に医薬品や医療機器等の使用例と非使用例とを比較した副作用の発生状況などの把握が可能となります。これにより、各製品の有効性及び/又は安全性の説明に役立つことが考えられます。

5: 治験対照群としての活用

患者自然歴を把握し、レジストリデータを外部対照として活用することで、臨床試験の症例数が少ない場合においても、当該臨床試験に登録された患者背景に合わせた対照群の設定に役立つ可能性が考えられます。

*1、 2と3の目的での運用は既に始まっています。

*4、5の運用は継続して検討が必要とされており、政府はこれらの運用を目指し、疾患登録システムに関するガイドラインを策定する予定です。

4: 患者レジストリ活用における課題

このように活用が進み始めている患者レジストリですが、国内での活用にはいくつかの課題があることが指摘されています。

1: レジストリ内のデータ整理・構造化

治験・臨床開発の利用目的に応じた必要な情報がない、データが整理・構造化されていないといった理由から、企業がすぐに活用しやすいものとなっていないという問題があります。データの整理・標準化・構造化については、データクレンジングを行うことで解決しますが、データクレンジングとデータの保守管理にも膨大な人件費がかかっているのが現状です。

データクレンジングについては次の記事をご覧ください。

データクレンジングとは?具体的な方法と医療におけるデータクレンジングの必要性を解説

2: 各レジストリの認知度

大学・学会などの機関がレジストリの運用を独自に行っているため、どこにどのような患者レジストリが存在しているのかといった情報が明らかではないという問題もあります。

 

これらの理由により、臨床開発の現場などにおいて、患者レジストリをうまく活用できていないのが現状です。また、以下のような運用面での課題も明らかになってきています。

3: 個人情報の保護に関する配慮及び患者の同意取得

レジストリには患者の機微な個人情報が含まれており、中でも希少疾患は個人の特定が一般的な疾患と比べてされやすいため、慎重に取り扱う必要があります。また、第三者がレジストリを利用するには患者さんの同意が必要となり、患者さんに情報利用目的を理解いただけなかった場合、患者さんとの間で研究に対する意識に乖離が生じ、研究の推進の妨げになる可能性もあります。

4: 研究成果の帰属

研究での患者レジストリの情報の利用により、研究成果が得られた時、その成果の権利は誰に帰属するか(情報提供者か被提供者か)。そのため、成果権利が誰に帰属するのか事前に検討をする必要があります。あらかじめ関係者すべての立場を明確にし、すべての関係者が納得できる帰属先を決定することが重要です。

5: 活用するレジストリデータの信頼性

患者レジストリの運用目的によって、求められるデータの品質の信頼性水準が異なるため、収集されたデータの信頼性の評価も必要です。

6: 維持費用

慢性疾患の研究など長期に渡る研究の場合、実態を把握するため長期的に患者の情報を蓄積できる体制を維持しないといけません。セキュリティを確保できる施設や患者レジストリの運用を実施するスタッフの維持も不可欠であり、そのための長期的な資金の確保が必要です。

7. 情報更新

長期的な研究を行う際、継続的な情報更新の必要性について患者さんから理解を得られにくい場合が多く、患者さんからの情報提供の継続率が下がる可能性があります。また、患者さんからの理解がある場合も、定期的に情報を提供してもらうための工夫が必要です。

8: データ連携の仕組みの整備

将来の研究でどのような情報が必要となるかは予測できない一方で、患者レジストリの収集項目を増やすと、収集率の低下につながります。つまり、ひとつの患者レジストリにすべての情報を集めることは不可能に近く、そのため、患者レジストリに収集する情報を他の情報源からの情報と連携できるような仕組みに整えておくことが重要になります。

5: おわりに

患者レジストリは、分野によってはすでに活用が始まっていますが、残念ながらそのポテンシャルを最大限活用できているとは言い難いのが現状です。

政府は、レジストリを活用できる環境を整備することにより、レジストリの利活用を一層促進し、新たな研究や開発につなげていくことで日本の医薬品・医療機器等の開発競争力を強化していくことを目標としており、患者レジストリのさらなる活用が期待されます。

一方、先に述べたように患者レジストリの長期的な活用のためには、ランニングコストの削減が必要です。維持・管理の労力負担軽減の方法として、入力工程やデータの整理・クレンジング・構造化作業を自動化や、電子カルテシステムとの連携などが考えられます。


Yuimediでは、医療をデータで結うために、患者レジストリの設計やデータクレンジングなどを含むRWDの利活用促進のためのシステム提供およびコンサルテーションを実施しています。

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